1日目前編では、朝の千賀の浦市場から石巻を歩いたところまでをお伝えしました。後編は、石巻から松島へ戻って16時発の最終遊覧船に飛び乗るところから、夜の仙台・文化横丁まで。1日の後半だけで、船と海とずんだと日本酒が全部詰まった濃い時間になりました。
16時発、この日最後の遊覧船——松島島巡り観光船「仁王丸」
石巻からレンタカーを飛ばして松島へ。目当ては16時発の遊覧船で、この日の最終便です。松島の遊覧船は複数の会社が運航していますが、乗ったのは松島島巡り観光船の「仁王丸」。松島湾でいちばんの名勝「仁王島」の形をモチーフに造られた船だそうで、名前を聞いてから島を見ると、なるほどと納得します。所要時間は約50分、湾内をぐるりと一周するコースです。


桟橋に並んでいる時点ですでに気持ちが上がっていたのですが、この時間帯を選んだのが結果的に大正解でした。夕日になる直前の、光がやわらかくなりはじめた頃合い。海面がきらきらして、松を乗せた島々が黒いシルエットになって浮かんでいる。日中の便だと、たぶんもっとぱきっとした観光写真的な景色だったと思います。この光は16時ならではでした。

船内の窓からは、赤い福浦橋と、その向こうに続く島影。デッキに出れば風と波しぶきの音のなかで、ずっと海を眺めていられます。船内アナウンスが島の一つひとつを解説してくれるのですが、鐘島、仁王島と名前と由来を聞きながら現物を見ると、ただの奇岩が急に物語を持ちはじめるのが面白い。ド定番中のド定番の観光ですが、定番には定番の理由がある、と素直に思える50分でした。


松島島巡り観光船(仁王丸コース)
住所:宮城県宮城郡松島町松島字町内85[要確認:乗船券発売所は町内に4ヶ所あります]
電話:022-354-2233(対応時間 8:00〜17:00/冬季 8:30〜16:00)
運航:9:00〜16:00の毎正時、1時間おき(冬季12〜3月は15:00が最終)
所要時間:約50分
料金:大人1,500円/小学生750円(2階グリーン席は+600円)※WEB予約で割引あり
公式サイト:matsushima.or.jp
※季節や天候により運休・増便があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。公式サイトを装った偽サイトへの注意喚起も出ているので、予約の際はご注意を。
小腹が空いてたので——松島のずんだソフト
船を降りて、駐車場に戻る前にどうしても甘いものが食べたくなりました。宮城といえば、というのは百も承知でずんだ味のソフトクリームを。
枝豆のあの青い風味がちゃんと立っていて、甘さは控えめ。ずんだ餅だとどうしても腰を据えて食べることになりますが、ソフトクリームなら片手で歩きながらいけるのがありがたい。松の木立ちの下、まだ日の高い夕方の道端で食べるずんだは、暑さも相まって最高でした。移動中の観光にはこういう「歩ける甘味」が本当にちょうどいいです。

スコールに降られて、仙台駅の角打ちへ——むとう屋 仙台駅店
そこから急いで仙台へ戻り、レンタカーを返却。返した瞬間くらいのタイミングで、スコールのような雨が降り出しました。ここまで運転していたのでずっとお酒を我慢していたわけで、雨宿りの口実を得た私の行き先はひとつです。
向かったのは仙台駅1階「tekuteせんだい」の中にある「むとう屋 仙台駅店」。創業昭和21年、松島に本店を構える「宮城の日本酒」専門店です。店内にはずらりと宮城の蔵の酒が並び、その一角で角打ち(立ち呑み)ができます。50mlから試せるので、飲み比べセットも人気とのこと。壁に貼られた品書きを見ると、阿部勘、一ノ蔵、浦霞、乾坤一、澤乃泉、綿屋、日高見、萩の鶴……と、宮城の蔵元が番号を振られてずらり。辛口・甘口・古酒・濁り酒がマークで分類されていて、これは見ているだけで楽しいやつです。

迷った末に選んだのが「水鳥記 純米吟醸 雄町」。気仙沼の角星のお酒です。深い青のボトルが照明を受けてきれいで、まず見た目にやられました。味はすっきりと辛口寄りで、雨で火照った体にすっと入っていく。運転から解放された最初の一杯としては、これ以上ない選択でした。
本当はここで腰を据えて飲み比べたい気持ちでいっぱいだったのですが、この日はまだ本命が控えていたので、一杯だけで切り上げてホテルへ。旅先で「あえて一杯でやめる」という判断をしたのは、我ながら偉かったと思います。

むとう屋 仙台駅店
住所:宮城県仙台市青葉区中央1-1-1 仙台駅1F(tekuteせんだい内)
電話:022-796-8815
店舗営業時間:10:00〜20:00(元旦を除き年中無休)
角打ち営業時間:10:00〜20:00(L.O. 19:30)※繁忙期(12月下旬〜1月3日頃)は休み
公式サイト:e-mutouya.jp/Instagram:@plat_sendai
この旅のいちばんの目的地——文化横丁「源氏」
そして今回の宮城旅で、私が個人的にいちばん行きたかった場所。仙台の飲み屋街・文化横丁にある酒場「源氏」です。


夜、赤提灯が並ぶ「文化☆横丁」のゲートをくぐる。日本三大横丁のひとつとも言われるこの横丁は、それだけでもう空気が違います。細い路地を進んで、さらに脇に入った突き当たり。建物と建物の隙間のような通路の先に、低い位置に「源氏」とだけ書かれた小さな明かり。初見だと本当に入っていいのか一瞬ためらう佇まいです。
着いたときは満席でした。それでも「お一人ならカドの席なら」と声をかけてもらえて、座らせていただけることに。コの字型のカウンターで、客が増えるにつれて少しずつ詰めていく、あのスタイルのお店です。
創業は1950年(昭和25年)。着物に割烹着姿の女将さんとスタッフの方が、静かに酒を注ぎ、料理を出す。その所作がとにかく格好いいのです。無駄がなくて、余計なことを言わない。でも冷たいわけではまったくなくて、初めての客にもそっとお店のルールを説明してくださる。


そのルールというのが、この店を有名にしている仕組みです。お酒を一杯頼むと、それに合わせたお通しが一品付いてくる。そして、お酒は基本的にひとり四杯まで。次の一杯を頼むと、また別のお通しが出てくる。つまり、飲む杯数がそのままコース料理のように進んでいく。四杯で終わりと決まっているから、だらだら飲まない。きれいに飲んで、気持ちよく帰る。「四杯屋」と呼ばれる所以です。
私はまずビールから。よく冷えたジョッキが出てきて、隣にはお通しの小鉢。二杯目からは日本酒に移り、「高清水 新酒初しぼり」(秋田・秋田酒類製造)、それから「高清水 生酛純米」。すり切りいっぱいまで注いでくれるので、受け皿にもちょっとだけ溢れる。あの注ぎ方を見るためだけに来る価値があります。
お通しは、かつお節と刻みねぎ、刻み海苔をたっぷり乗せた冷奴。旬の刺身の小鉢。そして、たまごとさつま揚げとこんにゃくのおでん。どれも量は控えめで、一杯にちょうど寄り添う分量。「酒のあて」という言葉の見本のような品々でした。派手さはまったくないのに、一つひとつが丁寧で、しみじみおいしい。
コの字カウンターの良さは、やはり人との距離です。両隣の方と自然に会話が生まれて、常連さんもいらっしゃって、宮城や山形の日本酒の話をしながら飲みました。一人で入ったはずなのに、気づけば一人ではない。老舗にありがちな常連が幅を利かせる感じもまったくなくて、どんな客もすっと受け入れてくれる懐の深さがあります。


店の隅にはピンクの公衆電話(しかも10円玉のダイヤル式)が、現役みたいな顔をして置かれていました。使い込まれたカウンターも柱も天井も、全部が古びているのではなく、磨かれて古色になっている。「変わらないこと、保つこと」がこれほど贅沢なんだと、座っているだけで伝わってくる場所でした。

源氏
住所:宮城県仙台市青葉区一番町2-4-8 文化横丁
電話:022-222-8485(予約不可)
営業時間:16:30〜22:00
定休日:日曜・月曜[要確認:祝日休みとする情報もあり]
※お酒1杯につきお通しが1品付き、お酒は基本4杯まで。飲み物は日本酒とビールのみで、ソフトドリンクはありません。酔ってからの入店はお断りとのこと。
※営業時間・定休日は変更の可能性があります。おでかけ前に現地・最新情報でご確認ください。
おわりに
石巻から松島の海を渡って、ずんだを食べて、駅で一杯引っかけて、最後は70年以上続く酒場のカウンターで四杯。1日の後半だけでこれだけ盛り込んだのは我ながら欲張りでしたが、どれも外せませんでした。
とくに「源氏」は、四杯というルールがあるからこそ、一杯一杯が濃くなる。制限が体験の質を上げるという、料理や食文化を考えるうえでもはっとさせられる仕組みでした。仙台でどこか一軒、と聞かれたら、私も迷わずここを挙げると思います。
2日目に続きます。


